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あひのん日和!【第2話】パートナー

◇ATTENTION◇

この話は、花園家で繰り広げられるあひるとののんの日常です。

うp主は一次創作者ですが、あくまで「花園家のあひのん」としてご覧ください。



*****



「うふふ」


 爽やかな酸味とスッキリとした甘さが口に広がる。あひるは先程ののんに頂いたアップルジュースを確と噛み締めていた。勿論、比喩である。


「さぁてと、部屋でも綺麗にするか!」


 あひるはにこやかな顔で、隅に置いてある段ボール箱を開ける。越して来たばかりとはいえ、この段ボールの山を片付けてしまわないと何だか気持ちが落ち着かない。

 1つめの段ボールの中には家鴨のクッション、これは座るとグアッと鳴くのがお気に入りだ。それから家鴨のぬいぐるみ、お風呂に浮かべる家鴨の親子の玩具……などなどMY家鴨グッズを並べていたら、いつの間にか鑑賞会になっていた。


「危ない危ない。カーテンでも替えよう」


 淡鮮緑の生地に白の水玉模様(一部家鴨のシルエット)でプリントされたカーテンを綺麗にキメたところでののんが自分を呼ぶ声が聞こえた。おそらく昼食だろう。片付けもそこそこにあひるはリビングへと向かった。



*****



「ごめんなさい、朝食みたいになってしまって」


 そう言って出されたのは冷製ポタージュとサラダとパンケーキ。パンケーキの上にはベーコンと目玉焼きが乗せられていて、オニオンチップスとメープルシロップが掛けられている。


「いやいや、美味しそう! いただきまーす! ぱく……んう美味しい!」

「へへ、どうも」


 妙にとろみのあるメープルシロップは思いのほか甘くなくて、おやつともデザートとも違う感じだ。黄身を割ってベーコンと食べてみる。あまじょっぱい。美味しい。


「……」

「……」


 ののんの口内でザクザクとオニオンチップスが踊る。つまり、とても静か。アップルジュースの件から和やかだった心がまた乱れ始めた。


(やっぱりまだ打ち解けてないよね! 何でそんな気になってたんだろ!)


「テレビつけます?」

「お、おお」


 確かに静かではなくなったが、閑か。読みも意味も同じだが、なんかそんな感じ。正しい言葉の意味なんて分からないが。

 そのままファースト・ランチは終了した。



*****



「う"ーん!」


本日2回目の唸り声をあげる1羽。


(ボイストレーニングの時間まで寝よ……)


そうして50分後、ののんに起こされる羽目になることを哀れな鳥はまだ知る由もなかった。



*****



「……」

「すみません本当にごめんなさい」


(最悪だ。コイツは1時間前の約束すら守れない鳥頭なんだわと思われたに違いない。なんてことだ。やってしまった)


「今日は個別レッスンらしいので、先に私のを見て覚えてくださいね」

「はい」

「聞いてます?」

「はい」

「……はぁ」


 今の溜息でHPが1になった。死にそう。話は聞いている。しかし心が追いつかない。この態度も不真面目な奴に見えているのだろう。早く部屋に戻って家鴨のぬいぐるみをもふりたい。

 そうして時間だけが過ぎていく。


「はーい今日は終わりね」

「有難う御座いましたマスター」

「有難う御座いました……」


(終わったのか……2つの意味で)


 人生最大の失敗トップ10にはランクインするだろう失態に頭を支配されたあひるは、さっきまで受けていた筈のボイストレーニングの記憶が曖昧だった。


「なんかごめんね、上手くあひるちゃんの力引き出せなかったかな」

「え"! そそそんな事ないです力不足ですみません!」

「今日は1回目なのですから、そんなに気になさらないでください」

「んーそうね。あ、のんちゃんは少し残って。あひるんは休んでいいよ。お疲れ様でした」

「はっはい、失礼致します……」


 パタン、と誰もいない廊下にやけに音が響く。

 のんちゃんは一体何を言われるのだろうか。彼女が起こしてくれたのでボイトレには遅れていない。だがマスターにも直に伝わるだろう。デビューが取り消しになったらどうしよう。


(あー死にそう。というかもう瀕死)


 世界中の家鴨の名を背負った者として何たる失態であろうか。数時間前の決意すら揺らぐこの衝撃。月までぶっ飛びそう。ブラジルまで落ちそう。

 あひるは重い心を引きずりながらも自室となった部屋に帰り、ベッドに潜り込み、そうして約10分の間、家鴨のぬいぐるみを湿らせた。


「……あー! ダメダメこんなんじゃ! まだ1日目だぞあひる! 大丈夫!」


 アヒルの子は強く在らねばならない。心が駄目なら体から。嫌なこと全部吹き飛ばす勢いで頬を引っ叩く。頬と目頭が熱い。


「うん! 大丈夫! 出来る! 私は白鳥ではなく家鴨になるの! だって家鴨だって純白の羽を持っているじゃない! 未来を見るのよ!」


 訳の分からない言葉で自らを勇気づけた。顔が熱いのは、鼓動が速いのは、悲しいからではない。私の道はここから始まるのだという事実に歓喜しているからなのだ!


コンコン


「……えっ」

「……ののんです。お時間宜しいでしょうか」

「ぁあああはいはい全く問題ナッシングでございます!」


 突然の訪問にドタバタしつつ、ちゃっかり髪を整えて笑顔でドアを開ける。が。


(……遠い)


 フルスマイルでドアを開けたあひるの眼に映るのは、1m以上離れて(というかほぼ廊下に立たされた小学生のように)壁際にちょこんと佇む彼女の姿であった。


「……あの、のんちゃん?」

「お邪魔します」

「おおう!?」


 ズカズカと……とは言えないが割と強引に我が聖域に侵入を許してしまった。あんなに離れていたのに、行動が読めない。当のご本人はちゃっかりベッドに腰を下ろしている。許可してませんよ私!


「クッキー、焼いたんです。お嫌いですか?」

「え、いや、好きです、けど」

「あげます」

「えっあっ有難う!」

「……うん」


 雪玉のようなまぁるいクッキー(ブールドネージュというらしい)を頂いたまでは良かったが、どうすればいいのだろう?

 正しい返答が分からないまま黙っていると


「……3時のおやつ、です」


 まとまらない会話。どうやらあちらも困っているようだ。このままでは埒が明かないので、思い切って訊いてみることにした。


「あの、率直で悪いんだけど、何の用でしょうか……?」

「……気分転換に、なればいいなと考えたのですが逆効果でした。すみません」

「……それは」


 気を使ってくれているという解釈でいいのだろうか?


「口下手なもので、上手く伝わらないのは承知の上なのですが。その。辛い時は私を頼ってください。2人なら、辛いことも半分ですよ、きっと。私ではお役に立てないかもしれませんが、微力を尽くします。代わりに良い事があったら、2倍にして返してください。……それで良いんだと思います。だから、大丈夫です」

「……っありがとう!」


 先程とは別の意味で顔が熱い。枷が外れたかのようにスッと軽くなる。


「……一応、貴女のパートナーなので」

「ぱっ!」

「不束者ですが、良い関係を築ける様に努めさせて頂きます。宜しくお願い致します」

「こ、こちらこそのんちゃんのパートナーとして恥じぬ人になります! ならせてください! 世界中の家鴨に誓って!」

「はい。(家鴨?)」


 2人は暫く他愛もない会話をして、ののんはレコーディングがあると言って部屋を出て行った。


(少し不器用だけど、わざわざクッキーを焼いて励まそうとしてくれたんだ)


 不安なんて吹き飛んだ。自分の立場を理解していなかっただけだったのだ。


(私、めっちゃ愛されてるじゃん!)


 若干調子に乗っていると思う。それでもいいや。


「家鴨さーん! お友達1号が出来たよぉー! あ、勿論家鴨さんも友達だよ!」


 相棒に先程の自慢をし、デビューに向けて自己練習をするあひるの姿があった。


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