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あひのん日和!【第3話】デビュー前夜

◇ATTENTION◇

この話は、花園家で繰り広げられるあひるとののんの日常です。

うp主は一次創作者ですが、あくまで「花園家のあひのん」としてご覧ください。



*****



 あの一件以来、あひるとののんは自然に会話出来る仲まで成長した。主にあひるが話しかけてくるのを、ののんが仕方なく対応するという感じではあったが。

 そんな2人のある夏の昼下がり。


「あひるちゃん、衣装です。お納めください」

「ああ! ありがとー! 着てもいいの?」

「はい、勿論です。寧ろ着てくださると有難いです」

「そうなの? じゃあ着てくるね!」

「いってらっしゃいませ」


 今から1年も前になるが、マスターに「あひるっぽい衣装を頼む!」と無茶振りをしたのを思い出し、少し恥ずかしくなる。


(着ぐるみだったらどうしよう)


 そんな心配も衣装を見た瞬間に速攻で宇宙へ飛んで行った。

 オレンジのラインが効いた羽のようなアームカバー。ふりふりした尻尾のようなシルエットのボトム。水掻きをイメージしたのか妙に足底が広い変なブーツ。そして極めつけに家鴨の顔のヘッドフォンマイク。そのうえ所々卵型の装飾が施されていて可愛い、可愛すぎる。見た目はワンピースなのに、トップスとボトムで分かれているし、パンツスタイルだから動きやすい。余裕で開脚出来るぞ。

 あひるはそれはもうウッキウキで早々と着替えて、ののんの元へ走った。


「じゃじゃーん!どうよ!」

「サイズ感は大丈夫そうですね」

「衣装の感想は言ってくれないの? これ凄くない? 超可愛くない?」

「自分の作った服に感想を求められても」

「これのんちゃんが作ったのー!?」

「マスターに頼まれたので。あ、でもデザイン原案はマスターです」

「マジかー!」


 割と本気で感動しているし感謝が溢れ出てるのだが、感動し過ぎて語彙力が足りない。言葉にならないツラみ。


「家鴨っぽいって何ですか本当……」

「ツンデレかあいいよ!」

「マスターの頼みだからです。抱きつかないでください」

「えー?あ、そういえば昨日の夜にミシン使ってたよね。もしかして?」

「ぅわ見られた」

「えっ何もしかして鶴になって飛んでっちゃう?」

「飛びませんけど。それに違います。自分の衣装です」

「えっ私が先だったの? ごめんね!」

「いえ、マスターが先にデザイン案を出してきたので。私のは1日前に届きました」

「マスタァ……」


 聞いたところによると、マスターは私が来る1年前から衣装やHPを作っていたらしい。ふと考える。私はのんちゃんをどれだけの間、待たせたんだろう。


「……愛されてますよ」

「え……」

「私なんて2年前からいるのに、デビューどころか衣装が1日前に届いたんですから。マスターに感謝してくださいね」

「……うん」


(どうしてマスターは私を待っていたのだろう。だって、2年間のんちゃんはデビューも出来ないままずっと1人だったってことだよね?)


 急に居た堪れなくなり黙ってしまう。


「まぁ、私の方が3倍くらいは愛されてますけどね?」

「え」


 ドヤァ……と擬音が見えそうな笑顔で私を見つめるのんちゃん。嘘ではなさそうだ。私は腹立たしいような気もする顔ののんちゃんを見て安堵した。私は心配性なのかもしれない。


「じゃあ後は、私の準備だけですね」

「何が?」

「デビューまで」

「!」


 デビュー。そうか、もうすぐデビュー。待ち侘びていた筈なのに、いつの間にかすぐそこにある。


「歌、練習しておいてくださいね」

「勿論であります!」

「ふふ。それじゃあ私も、衣装張り切って作っちゃおうかなぁ~」

「見学してもいーですか先生ー!」

「見学料取りますけど」

「美味しい肉じゃが作るからぁ~!」

「豚肉で頼む」

「はーい。」



*****



カタカタカタ……シュルルッ、トントン


 軽快な音を聞きながらあひるは楽譜を読む。目を通し終わり、そこはかとなく眠くなってきた気がして、眠気覚ましにでも、と横目でののんを盗み見る。

 ののんと出会って1週間。まじまじと顔を見たことは無かった気がする。作業に夢中になっているのを良い事に観察を始める。


 今日の髪型はポニーテール。コロコロ変わるが、必ず編み込みがある辺りにこだわりを感じる。どうやらダッチブレイド(裏編み)が好きらしい。確かに普通の編み込みより立体感があって面白いかも、とか考えてみる。ちなみに普通の表編みはフレンチブレイドと言うらしい。「せめて横文字でイマドキ女子になろうかと」というのんちゃんのよく分からないこだわりである。前髪が少し流れているところにエロスを感じマス。横髪は姫カットのアレみたいな。詳しくないから分からないけど。前髪に隠れる眉毛は少し太め。ブルーグリーンの垂れ目がアンニュイ。白雪姫ってきっとこんな感じなんだろうなと思わせる白い肌。そして……


(一体何カップなんだ?)


 大きい。絶対Dはある。Eか? 良い胸のEか? スケベなことを考えているのを感じ取ったのか、ふとののんと目線がぶつかる。


「曲、どうですか?」

「あっはい!良い感じです!」

「そう」


 会話もそこそこに、のんちゃんはまた作業に戻ってしまった。


(私と同い年なのに、大人っぽいよなぁ……)


 見た目は幼いが、私よりオトナだ。素敵なレディーって感じ。私も大人になろう、と人知れず決意するあひるであった。



*****



「よし……完成です!」

「おー! いいねー可愛い! 絶対似合うよ!」

「有難う御座います。それじゃあ、マスターに報告してきます」

「私も行くー!」


 後日、無事あひるとののんの衣装も完成し、「最終審査よ!」とマスターにお披露目することになった。


*****


「レディースエーンジェントルメーン! それではー響姫あひる&音暖ののんの登場でーす」


 マスターの「キャアー(棒)」という掠れた黄色い声をBGMに、2人はAm○zonの段ボール製のステージに上がる。


「あなたのハートにぃ~?あひるんずっきゅん! 心に響くあひるの歌声、響姫あひるでーす! 精一杯歌うから、ちゃんと見守ってね! 宜しくお願いしまーす!」

「アナタのvoiceフォルダに入れてください! 音暖ののんと申します。宜しくお願い致します」

 

 マスターは2人をパシャパシャと撮影し、画面を凝視した後に「うん、いいよぉ~可愛いよ~まるっと合格ぅー!」と最終審査にクリアした意を2人に伝えた。


「やった~! のんちゃん! いえーい!」

「わ、え、いえ~い?」


 いつの間にかハグまで出来る仲になった2人を微笑ましく眺めるマスターであった。

 

 こうして、2人は2015年7月22日に正式にデビューすることが決定した。



*****



 とある日の、少し蒸し暑い夏の夜。


「のんちゃぁあん……起きてますか~?」

「……んー」


 少し不安で寝付けない私はのんちゃんの部屋を訪ねた。迷惑じゃなかっただろうか。もう寝てたのではないだろうか。後から後悔するが、デビュー前夜くらい甘えていいよね?


「はいっていいよぉー」


 いつもより舌足らずな声に従い、ドアを静かに開けた。


「ごめんね、寝てた?」

「んー別に良いよ。暑くて寝れなかったし」

「暑がりだよねぇ、この部屋寒いよ?」

「廊下が熱いんですよ」

「えー? のんちゃん手冷たいよ? ほら」


 ののんのひんやりとした手を握る。この前、外で触れた時には熱かったのになぁと変温動物みたいなののんの手を熱で溶かす。


「暑いって言ってるじゃないですか」

「あー! 末端冷え性になるよ!」

「暑いより寒い方が良いの!」


 やっぱりのんちゃんと話しているのは楽しい。心がじんわり温かくなる感じ。


(落ち着くなぁ……)


 落ち着くのに、気分が高揚する。ついに明日デビューするんだ。のんちゃんと2人で。

なんだか目頭が熱くなる。火照った体にクーラーが心地良い。


「いよいよ明日ですね」

「……うん」

「まぁ、直ぐに人気が出て忙しくなる訳でもないでしょうし、地道に活動していきましょう。私達のペースで」

「うっそうだよね……勝手に煌びやかな世界に行くもんだとばかり……」

「でも、大きな一歩です。公に出ないのと出るのは全く違いますから」

「そうだね。うん、そうだ!」


 2年間あたためられた『音暖ののん』の言葉の重みを感じつつ、新入りの私と一緒にデビューしてくれる先輩兼同期に感謝する。


「のんちゃんに出会えて本当に良かった」

「……うん」

「ねぇ、のんちゃ……」

「ああ! 艦○れの遠征が! ちょっと待っててくださいすぐ戻ります」

「……私も戻るよ! 有難うのんちゃん!」

「え? あー分かったおやすみなさい」

「うん、おやすみ~!」

「あ」

「何?」

「日付が変わりましたね」

「うん、そうだね」

「それじゃあ、今日のあひるちゃんはアイドル1日目ですね。」

「それを言うならのんちゃんもだよ~!」

「ああ、そうですね。うん。……頑張りましょう」

「勿論! 共に歩んで行こうぞののん殿?」

「歩んで行くでやんす姉御ー!」

「何のキャラなのwwww」

「下っ端A」

「ふふっwww ついてきなさーい!」

「ついていくでやんすー!」


 ついて行っているのは私の方だ。常に私の前を歩いているのんちゃんの背中を、足跡を必死に辿っているのに、追われている本人は気づかないものなんだな。そりゃそうだ。後ろなんて見ないよ。

 ……いや違う。のんちゃんは私の手を引っ張っているから一緒に歩んでいると思ってる。本当は小走りで付いて行ってるのにな。

 のんちゃんの周りは苦労するなぁーとあひるはふわふわしたののんの分析をしつつ、部屋を後にした。


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