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あひのん日和!【第5話】音暖のーと

◇ATTENTION◇

この話は、花園家で繰り広げられるあひるとののんの日常です。

うp主は一次創作者ですが、あくまで「花園家のあひのん」としてご覧ください。




*****



「本日はお二人に重大なお知らせがあります」


 いつものふわっふわしたトーンで重大なんて言葉を使うマスターに律儀に耳を傾けるあひるとののん。ただし2人の顔は手元のトランプを凝視している。


「マスター今度は何ですかー?」

「キタアカリでも箱で買ったんですか?」

「うちに新しい子が来まーす」

「えー! 歓迎会開かなきゃね! どんな子?」

「のんちゃんのお兄さんで~す」

「「!?」」

「お入りくださーい」


 2人がドアの方に振り返ると、そこには青年が笑みを浮かべて佇んでいた。


「音暖のーとです。以後お見知りおきを」



<第5話!音暖のーと>



「きょっ兄妹!? のんちゃんに?」

「ほら、見てみ? この髪色! 目!」

「ハッ……にッ似ているッ! 初めて会った気がしない!」


 あひるとマスターは音暖兄妹を見比べてはキャアキャアと騒いでいる。


「やぁ、まさかこんなところで会うなんてね」

「あらまぁ、本当に。これから宜しくお願いしますね」

「うん、宜しくね。ええと、君があひるちゃんかな? ののんさんがいつもお世話になってます。妹共々、これから宜しくお願いします」

「あっはい! こちらこそ宜しくお願い致します!」


 にこ、と柔らかい笑顔を向けられ、あひるは異様にドキドキしながら頭を下げた。流石兄妹、笑った顔はそっくりである。強いて言うなら、ののんに爽やかさと愛想をプラスしてクールな雰囲気を引いた感じだ。……あれ? 結構違うのでは?


「……あの、何か顔についてるかな?」

「あ! いえ! 似てるな~と思って! ごめんなさい!」

「そうかな? 何だかちょっと恥ずかしいなぁ」


 そう言って彼は太くて凛々しい眉毛をハの字に下げて笑う。分かり易く照れる様子にこちらまで顔が熱くなってくる。これがののんだったら照れ隠しに怒られていたことだろう。


「似てませんよ」

「(あ、やっぱり)」

「そうか、ごめんね」

「そ、そんなことないですって! 似てると思うなぁ!」

「あはは、有難うね」

「もう……」

 

 そんなことを話していると、マスターが「のーと君を部屋に案内するから」と言って彼を連れて行ってしまった。

 あひるにも兄がいるが、もっと馴れ馴れしいというか、妹に気を遣うようなタイプではなかった。そのせいか、音暖兄妹の微妙な距離感を見ていると少し不安になるのだが、2人はどう思っているのだろうか?


「……ねぇ、お兄さんと仲良いの?」

「ん? まぁ喧嘩はしたことありませんよ」

「そうなんだ!」

「まぁ、そんなに話さないというか、お隣さんって感じですかね」

「お、お隣さん……?」

「何かあったら偶に声をかけるくらいで、基本不干渉です」

「そ、それは……」


 あひるは「兄妹にも色々あるんだなぁ……」と天井を仰いだ。



*****



「あひるちゃんの眼、琥珀みたいだ。綺麗で素敵だね」

「……!?」


 あ、今アホ毛飛んだ気がする。そんな衝撃があひるを襲う。


「え、あ、アリガトウ……ゴザイマス」

「うん」


 真顔でトンデモナイことを彼は言っている。無自覚とはこんなにも恐ろしいものなのかと思わず顔をしかめてしまったが、少女漫画のような、王子様のような、現実的に考えたらホストクラブで飛び交うような(15歳の妄想であるが)甘い台詞に少なからず赤面する。あひるにはすぐ調子に乗るところがある。


「(ななな何なんだ今のは少女漫画かな? え? 何かした? そういえば最近ロメオ君(♂)に凄くタックルされる気がする……まさかのモテ期? やっやだぁ私ったら罪なオンナ……?)」


 そんなことを考えていたらいつの間にか彼は立ち去っていた。いや、あれ挨拶か? 兎も角、本来の目的地へ向かった。



*****



「おう?」


 何やら男女の話し声がする。まぁ誰かは想像がつくのだが、あひるは興味本位でひょいっと顔を覗かせた。


「髪の毛サラサラしてて触り心地がいいね。手入れちゃんとしてて偉いなぁ」

「触らないでください」バシッ

「ごっごめんね」


(のっのんちゃ! なんて塩対応! 傷口に染みる! じゃなくて誰の許可を得てのんちゃんに手を出してるのだ許すまじのーとこんにゃろう! こんにゃくボーイが!)


 訳の分からない言葉で脅してみるが、2人は自分に気づいていないようなので、あひるはこのまま聞き耳を立てることにした。


「で、何作ってるんですか?」

「うん! あの、肉じゃが作ってみたんだけど、どうかな?」

「好き」

「良かった! 味見してみてくれないかな?」

「勿論です」


(ああああちょろいー! ちょろ助すぎるよのんちゃあああん!)


「もぐもぐ……微妙」


(肉じゃがに厳しい!)


「あはは、そうかそれは残念だ。次は美味しいの作ってみせるよ!」

「……ん」

「ののんさんが美味しそうに食べる姿を見ていると僕も幸せになるんだよね」

「安上がりでいいですネ」

「うん、だからさ。

 今度2人でディナーに行かない?」

「え?」

「えっちょっ」


 あまりに驚きすぎて壁から思わず飛び出してしまった。


「美味しい居酒屋がいいです」

「居酒屋? まぁ、良いけど……」

「あれ、あひるちゃん」


 目が合った瞬間、ぱぁ~っと花弁を散らしたののんに、あひるは微妙な笑みを返す。


(めっちゃ笑顔~可愛い~けど気まず~い)


 こういう空気は苦手なあひるは場を繋ぐ為に言葉を紡ぐ。


「やぁやぁおふたりさん仲がよろしいようで」

「え?」

「(のんちゃああああん!!!!!)」


 ガチトーンの掠れた低音を響かせ、漫画の技法か! と突っ込みたくなる程に眉間に皺を寄せた完璧なしかめ面を見せたののんに思わず泣きたくなるが、常識人あひるはすかさずフォローを入れる。


「わっ私もよろしくしたいんだけど3人でどうかなぁ!?」

「ああ構わないよ。3人の方が楽しいと思うし」

「やった。あひるちゃんナイス」

「(大きい声で言わないのー!)」

「はは!」


 こいつはよくもまぁへらへら笑っていられるな私だったら即死するわ。ののんの対応を見つつ感心と同情がマーブル模様に溶解した。



*****



「という訳で居酒屋です」

「これ食べたい。とろ鯖の塩焼き絶対美味しい保証する絶対これ絶対」

「うん、そうだね。あひるちゃんも好きなの頼んでいいよ」


 異様にトロ鯖推しのののんを尻目に、のーと君のお言葉に甘えてメニューを眺める。


「あっはいはーい! じゃあねーぼんじり!」

「肉じゃがとチーズ芋餅とジャーマンポテトと豚汁」

「のんちゃんそれ全部じゃがいもだよ?」

「好きなものを頼んだらこうなった」

「あ、ポテトサラダは?」

「だったら甘藍の胡麻油和えが良い」

「何その基準」

「ポテトサラダはビッフェで十分」

「あー食べ放題いいねー!」

「2人とも次の予定立てるの早くないかな?」


 行きたいもんは行きたいんじゃ! と心の中で突っ込みして華麗にスルーする。


「ヴぇーヴぇーブルォックォルィーとぁぶぇつぁあい(ねーねーブロッコリー食べたい)」

「ブロッコリー単品は無いですよ」

「えー……じゃあ海老とブロッコリーのアヒージョとーあっチーズフォンデュ! ブロッコリー!」

「暑苦しいな」

「うるさいぞ芋子!」

「んだとこのフォアグラが!」

「食べないでぇ! あ、でものんちゃんに食べられるのなら本望かもしれないドンと来い」

「油っこいものがどうも苦手で。バターソテーとか何なの」

「知らんがな。私は好きよ」

「じゃがバタも許せないんだよね」

「えええ! あんなに好きなジャガイモが!? バターが嫌いなの?」

「味噌バターコーンラーメンとかバタークッキーは好き」

「訳が分からないよ」

「のーとくんは何が好きですか?」

「あっ小野芋子が隋へ渡来した」(訳:あっのーと君に話題変えたなー?)

「まさに夏のトライアングル」(三角関係と家〇教師のトライを掛けたのんちゃんのシャレ)

「? そうだなぁ……カルボナーラとか?」(ついていけないのーと君のスルースキル)

「ああ」


 低い返事にのんちゃんは好きじゃないんだなと脳裏にメモる。


「ブリ大根とか竜田揚げとかも好き!」

「良い趣味してるぜ!」


 あ、好きなんだメモメモ。


「野菜が無いぞぉベジたべろーブロォックォッルィイイ」

「枝豆とか? あ、茄子も良いよね。あとピーマンの肉詰めとかさ」

「とても分かる」

「ブロッコリーは!」

「ごまドレッシングが合う」

「ほほぉ胡麻ドレ派かぁ」

「分かる胡麻ドレブロッコリー最高」

「「「あはははは!」」」


 ブロッコリーの力で意気投合した3人であった。 ※素面です。



*****



「大満足」

「ね~! のーとくんご馳走様でした!」

「どういたしまして」

「……あれ? そういえば肉じゃがは?」

「明日のお昼でいいかなと思って。まさか今日外食すると思わなかったから」

「つい流れで」

「……あれ? というか普通は歓迎会をするタイミングだったのでは……?」

「ああそんな気を遣わなくても! それに今日凄く楽しかったよ。ありがとう2人とも」


(あれれ?)


 あひるは何故か誤解をしていた。ののんの髪を触ったり、ディナーに誘ったりしていた衝撃が強過ぎて、脳内でいつの間にか「ののんを弄び誑かすチャラ男」に変換されてしまっていた。しかし、初対面のあひるにまで夕食を奢ってくれて、自身の歓迎会を強制する訳でもなく、その上タダ飯食らい2人にお礼を言えるなんて、もしかしてこの人凄く良い人なのでは? よく考えたら別に悪い事してなかったような? というか普通、実の妹を口説く訳がなかった。


「……」

「あひるちゃん? 大丈夫かい?」

「えっあっ大丈夫です! ……その、今日は本当に有難う御座いました。のーとさん」

「えっ……うん、こちらこそ」

「……」

「……」

「あ、あの」

「はっはい!」

「……のーとくん、のままで良かったんだよ?」

「で、でも年上なので……!」

「君たちの方が先輩だろう? でも、俺はタメ口だ。……本当は嫌だったかい?」

「そんなことないです!」

「じゃあ、俺も同じ気持ちだから。ね?」


 この人はいつも困ったように笑う。でも、雰囲気で感情が伝わってくる。今は、距離を置かれて悲しいって顔。


「……のーとくん! ごめんなさい!」

「え!? どうしたの急に!」

「私、のーとくんのことをタラシ野郎だとばかり……ごめんなさい!」

「え、え? どういう……えっと、馴れ馴れしかったのかな。ごめんね」

「いや! なんていうか! 本当にごめんなさい!」

「あ、えと……大丈夫だから。顔を上げて。その、謝られるのに慣れてなくて、どうしていいのか分からない」

「……2人とも、何やってるのですか?」

「の、ののんさぁん……」

「のんちゃあ~ん……!」

「え……何……?」


 相方と兄が捨て犬のような顔でののんに同情を求めてくる。 


「お兄さんめっちゃ良い人だねぇ……!」

「はぁ? まぁ、そうですね?」

「不束者ですがこれからも仲良くしてくださいぃい~……!」

「ああそんな! こちらこそです!」


 2人はののんの知らない間に仲違いでもしていたのか、今は固く握手を交わし、和解している。ののんは完全に置き去りである。


「……何だこれ」


 何はともあれ、こうして3人は和睦した。これから花園家はもっと賑やかになることだろう。

 



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<のーとくんの裏側>


「2人と仲良くなりたい~?」

「うん」


 のーとは花園家に来る前、あひるの兄である響姫ひるやにどうしたら2人と仲良くなれるかを相談していた。


「俺に良いアイデアがあるぜのーとちゃーん」

「ほう、流石ですな」

「でっしょー? 最高のマブダチだもんね俺らー!」

「で」

「急かすなって! 仲良くなるにゃーこっちが好意を持ってることをアピールすればいいんだよ!」

「……そうだな」

「好意を持たれて嫌な気持ちになるかよ? ならないよなー! こんなセクシーでナイスガイにさーあ!」

「お前に一方的に行為を持たれたら若干迷惑な気もs」

「口説けばいいんだよぉ!」

「なにわろてんねん」

「のーとちゃんが仏頂面なだけよーん! 口説き文句なら任せなさぁい?」

「はぁ……まぁいいや。宜しく頼む」

「宜しくされましたぁん!」


↓↓


<居酒屋の後>


「仲良くなった」

「何で誘ってくれなかったの」

「え!? あ、ごめん……そういう感じだとは……」

「まぁ、気が利かないのはいつもの事だけどさぁ~?」

「……気になってたんだけど、その帽子何で買おうと思ったの?」

「それwwwww酷すぎワロタwwww僕泣いちゃうwwwwうぇっwwww」

「あっいやwwww そんなつもりじゃw 似合ってるよ、凄くお前っぽいなって」

「ちょっと人と違う帽子が欲しくて」

「その服は?」

「雑誌で見て可愛かったから真似た!」

「その帽子も?」

「これひるやオリジナル」

「クッソwwwww」

「ねぇーじゃあ明日お寿司行こ🍣」

「またぁ? おうちかえりたい」

「俺行ってないもーん! 俺もあひるっちとのんちゃんと戯れたぁい!」

「きも」

「え? 何? 砂肝?」

「食べてない」

「えー可哀想ーじゃあお寿司行こ」

「寿司屋に砂肝ないだろ」

「わっかんないぜー今ルァーメンまで有るんだぜ? もう寿司屋じゃねぇよな」

「ねーな。っべーな。なのにメロンパン専門店とか謎の店あるしな」

「それなwwww すぐいなくなるけど」

「流行りに上手く乗って短期間で儲かる戦略なのかねぇああいうのは」

「ふーん( ´_ゝ`) でお寿司」

「はー分かったよお前の奢りなぼくふところさびしい」

「ひもじいなの? 可哀想ーでもぼくもひもじいー」

「じゃあ食うな」

「TSUKIJI行こう。おうちで手巻き寿司」

「築地かぁ……玉子焼きよりプリンたべt」


 2人でTSUKIJIへ行きましたとさ!


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