◇ATTENTION◇
この話は、花園家で繰り広げられるあひるとののんの日常です。
うp主は一次創作者ですが、あくまで「花園家のあひのん」としてご覧ください。
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「おぉ~ここが花園家か! あー緊張するー!」
響姫あひるはアイドルとしてデビューすべく、花園家に居住することになった。ここではボイトレや撮影のお世話をしてくれることになっている。同時にデビューすることになった音暖ののんという子とも、今日が初めましてというところだ。
(どんな子だろう……暖かい音って書くんだよね。きっとそんな感じの子かな!)
「あひる、頑張ります……!」
初夏の爽やかな朝。世界中のアヒルに誓い、オレンジのアホ毛を跳ねさせながら、あひるは意気込むのであった。
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ピンポーン
あひるは背筋を伸ばし意気揚々とインターホンを押した。すると、中でバタバタと誰かが動いている音がする。……しかしなかなか返事が来ない。
「……あれ? すみませ~ん!」
人が居る気配はする、だが近付いて来る様子はない。寧ろ物音が小さくなったようにすら思える。隠れようとしているのか?
(まさか……泥棒!?)
あひるが玄関のドアノブを回すとガチャ、と軽い音が鳴る。鍵が掛かっていない。中に人が居るのだから当然だが、あひるは何故か避けられているようだ。しかし、あひるは時間を指定されて此処に来たのだ。それなのに住民が外出している筈がない。つまり、確実に此処の住人が中に居るのだ。──その筈なのだが、動きが色々と不審過ぎる。
(まぁ考えたって仕方ないか。声を掛けて逃げられたら追いかけてひっ捕らえよう!)
響姫あひるはそういう女の子である。
「たのもー! お初にお目にかかります! 響姫あひるです! 宜しくお願いしまーす!」
静寂。あひるを出迎えたのはひんやりと心地良い空気だった。
玄関に人はいない。しかしリビングらしき空間が伺える窓付きのドアからはテレビのような光が見えている気がする。耳を澄ますが、会話は聞こえてこない。
「……んー、お邪魔します!」
差し入れをガサゴソ鳴らしながら、あひるは一番近くのドアに手を伸ばした。
――刹那。
ガンッどんっガサガサ!
「うぐぅっ!」
「え……」
大袈裟な物音と鈍痛に、ドアがあひるのおでことお鼻にクリーンヒットしたことを当人は無駄に冷静な頭で理解したものの、体はそのまま床に叩きつけられた。
「え、あっ……す、すみません。えと、すみません。大丈夫ですか?」
「お、お気になさらず……」
「はい」
あひるの言葉通りに気にしてくれない様子の少女に、あひるは「あ、手とか差し伸べてくれないんだ」などと思いつつ痛みが残る体を起こす。軽くスカートを払うが、埃は付いていない。それよりも、差し入れの焼き菓子が中で砕けていないと良いのだが。
(あ、私の方が身長高い。ちょっと優越感)
あひるの顔を見るよりも先にお菓子の紙袋をチラリと見たこの少女がののんちゃんだろうか。今は私の鼻あたりを見て、少しピンクがかったブルネットの癖毛を整えている。目を合わせてくれないのは人見知りとか言うやつなのか。違ったら泣く。
「勝手に入っちゃってごめんなさい! 声が聞こえてないのかなって思って……!」
「……えと、聞こえてました。出迎えが遅くてすみません」
「ああっいいんです! すみません!」
「……音暖ののんと申します。その、お名前をお訊きしても宜しいでしょうか。すみません」
「あっ響姫あひるです!」
「ああ、そうでした。あひるって面白い名前ですよね。響姫もカッコイイ響きなのに姫って可愛いなって。これから宜しくお願い致します」
「こっこちらこそ!」
名前を忘れられていたことに若干ショックを受けつつも褒められたので良しとしよう。礼儀正しい子ではあるようだ。手を差し伸べてはくれなかったが。
「部屋を案内します」
「あっその前に! つまらないものですが……」
そう言ってマカロンを差し出す。きっとイマドキの女子なら好きだろうと考えて話題作りにカラフルで可愛いスイーツを選んだのだ。まぁ、今は紙袋しか見えていないのだが。
「有難う御座います。ではこちらに」
「はい! (あれー! リアクション薄い! 無表情!)」
そのあと大きな会話もなく、2人はそこはかとなく気まずい雰囲気のまま、家の紹介だけが淡々と進んでいった。
*****
(まずい。これはヒッジョーにまずい)
ついに最後の案内となるあひるの部屋が近付いてきた。未だに親密度が上がるような会話は出来ていない。あひるは今日まで、自分は誰とでも仲良く出来るタイプだと思っていた。こんなことは初めてだ。あひるは冷や汗をダラダラと流し、変な笑顔を貼りつけていた。
(ファーストコンタクトがこんなんで一緒にデビュー出来るのか!? どうしよう! 何か! 何か話題を!)
「ねぇ! ののんちゃんって呼んでいい?」
「……ん」
「ん? (それどっち!?)」
「マスターは、のんちゃんと呼んでいます」
「あっじゃあのんちゃん!」
「はい」
「私のことはあひるんって呼んで! あひるっちでもいいよ?」
「宜しくお願いしますあひるちゃん」
「……うん」
「ここがあひるちゃんの部屋です。14時からボイストレーニングがあるので、それまでごゆっくり。では」
「えっあぁ~あの!」
思わずドアへ腕を伸ばすが、無慈悲にもバタン、と閉まる音が響いた。
「……う"ーん!」
幸先不安である。「一緒にマカロン食べよ💓」と言うにはまだ早すぎる時間だし、多分昼食は一緒だろうから、それまでに今後について考えるべきだろうか。
あひるは憤りのままベッドにダイブし、唸り声を新品の枕に押し付けた。ついでにバタバタと足を動かし感情を落ち着かせようとしてみる。効果は……なさそうだ。
「あー駄目、喉乾いた。いきなりで申し訳ないけど飲み物貰おう」
あひるは泣きべそをかきながらのそのそと立ち上がり、さっき教えて貰ったばかりのキッチンへ慣れない足取りで向かう。
「……あ」
「うっ!」
キッチンへ向かう途中の廊下で、あひるは例の少女に出くわした。3分前に会ったのというのに数ヶ月前から喧嘩したきりの友人に遭った時くらい気まずい。
それでも頑張って視線を下げると、そこには2人分のコップ。他にも誰かいるんだっけ。
「……アップルジュース、大丈夫ですか?」
「はい!? あっはい!」
「どうぞ」
「こちらこそ!(?)」
軽く会釈し、挙動不審な私の横を何事もなかったかのように通っていったのんちゃんであったが、耳が赤くなっていたのをあひる・アイは見逃さなかった。
「有難う!」
「……はい」
ぺこりと下げる後頭部を確認。
「うん、可愛い」
勝手にののんと打ち解けたあひるは、軽快な足取りで部屋に戻ったのであった。
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